企業における未払い残業代や違法残業代を法的請求された際の対処法

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昨今、残業代に関するトラブルは、労働問題の中でも大きなウェイトを占めるテーマになっています。

こちらをご覧いただいている方の中にも、

「退職してやり取りの途絶えた元従業員から突然未払い残業代を請求された」

「会社で働いている社員から違法残業で訴えると言われた」

といったトラブルで、どのように対処したらいいかお悩みの方もいるのではないでしょうか。

本当に未払い残業代が発生していた場合には、真摯に対応しなければいけません。

しかし、状況によっては残業代以外にペナルティが課せられることもあるので注意しておく必要があります。

反対に、従業員が勝手に残業をしていた場合など、相手方の請求にそのまま応じる必要がない場合もあります。

今回は、未払い残業代や違法残業として残業代を請求された場合に、会社側としてどう対応したらいいのか、気を付けるべきポイントを紹介します。

1.未払い残業代の発生に注意すべき5つのケース


従業員から残業代を請求されたけれど、会社側は残業代を支払う必要があると認識していなかったというケースは少なくありません。

昨今、いわゆる管理職の未払い残業代支払い請求がニュースでも取り上げられましたが、過去の裁判例では、飲食店の店舗の責任者や、メーカー課長による未払い残業代の請求が認められ、会社にそれぞれ700万円を超える支払いが命じられたケースがあります。

ここでは、管理職のケース以外でも、どのような場合に従業員からの未払い残業代の請求に応じなければいけないのか、具体的なケースを紹介していきますので確認してください。

(1)みなし残業代を払っているケース

みなし残業代(固定残業代)とは、会社側が一定時間の残業があることを想定して、賃金の中に一定時間分の残業代を含んで支払う制度のことを言います。

近年、コンサルタントやSEといった労働時間の長短より成果主義に馴染む職業が一般化してきたことや、在宅ワーカーなど労働時間の多様化により、みなし残業代制度を利用している企業も増えています。

会社側としては、みなし残業代を払っていれば未払い残業代の請求に応じる必要はないと思うかもしれませんが、みなし残業代として含まれる時間を超えて残業をした場合には、みなし残業代とは別に、残業代を支払わなければいけません。

なお、みなし残業代の制度を利用する際は、雇用契約書に「基本給●●万円(●時間分の残業代を含む)」などの記載を雇用契約書に定めておかなければいけません。

下記で、従業員がみなし残業規定が無効であるとして未払い残業代を請求したけれど、規定の有効性が認められた裁判例を紹介していますが、契約書の文言や就業規則の内容などが不十分なために会社側が負けるケースが多いので、十分な注意が必要です。

(2)年俸制にしているケース

年俸制は、一般の会社では少ないかもしれませんが、1年の報酬をあらかじめ決定しておき、それを毎月分割して支払う報酬制度のことを言います。

年俸制の場合、原則として残業代は報酬に含まれません。
そのため、法定労働時間を超える時間を従業員が労働した場合には、その分の残業代を支払わなければいけません。

(3)管理職手当を払っているケース

管理職手当と残業代が問題になる場合、その従業員が労働基準法(労基法)で定める「管理監督者」にあたる立場にあるかどうかが、まず問題になります。

労基法上の管理監督者は、割増賃金等の労働基準法の規定は対象外となるのが原則です。
具体的には、残業代である時間外割増賃金や、休日出勤の割増賃金は、規定の対象外となるため発生しません。

労基法上の管理監督者に当たるかどうかの判断の基準としては、「経営者と一体的な地位にある従業員」かどうかを、裁判所が判断していくことになりますが、出退勤の自由や、立場相当の手当の支払いがあることなど、経営者と同視される立場にあることが必要となります。

反対に、「管理職」という名称の役職についていても、労働基準法で定めるところの管理監督者に該当しない従業員が法定労働時間を超えて労働した場合には、残業代を支払う必要があります。

管理職の残業代請求は、認められると一般従業員以上に多額の残業代の支払いを会社が負うリスクがあるので、十分に注意しましょう。

(4)残業命令をしていないケース

従業員が請求してきた残業代を支払う必要があるか否かは、上司の命令があったかどうか、なかった場合には会社の指揮命令下にあったか否かが問題になります。

上司の命令で残業をした場合に残業代が発生することは当然ですが、上司の命令がない場合であっても、部下の残業を黙認していたようなケースでは、会社の指揮命令に基づいて業務をしていたとして残業代を支払わなければいけないので注意しましょう。

(5)勤怠管理を行っていないケース

会社でタイムカードなどの出退勤システムによる管理をしていない場合、そもそも残業をしていたかどうかが問題になり、裁判まで争われるケースが多いです。

このようなケースでは、業務日誌、パソコンの使用履歴、従業員の日記などを証拠として、残業の有無を争っていくことになります。

これらの証拠から残業していたことが認められると、未払い残業代の請求も認められやすいうえに、会社の勤怠管理そのものの問題が問われやすくなるので、日頃から出退勤のシステムなどの活用によって、労働時間の管理を行っていくことが重要です。

2.違法残業や未払い残業代を請求された場合に注意すべきこと


未払い残業代を請求された場合には、該当する残業代を払えばそれで終わりというわけではありません。
会社側としては、次のようなリスクが生じる可能性が高いので意識しておくことが大切です。

(1)労働基準監督署への申告で刑罰を受ける可能性がある

未払い残業代の請求や、違法残業の問題は、従業員が労働基準監督署に相談をしたり申し出をすることで発覚するケースが多いのが特徴です。

この申告に基づいて、労基署が立ち入り検査を行うなどしますが、法律違反がある場合は行政指導による勧告が行われます。

勧告自体は強制力はないのですが、未払い残業代が生じた経緯や違法残業代は悪質と判断されたケースや改善が見られない場合には、起訴されて、電通のような罰金刑だけでなく、懲役刑を含む刑事処分を受ける可能性もあります。

(2)未払い残業代に付加金や遅延損害金がプラスされる可能性がある

未払い残業代の支払いには、残業代だけではなく、支払いが遅れたことによる遅延損害金が発生する可能性があります。

遅延損害金は、個人会社の場合は5パーセント、法人の会社の場合は6パーセントとすることが法律で定められています。
しかしこれは在職中の話で、退職後は14.6パーセントと、非常に高い利率の遅延損害金が発生することになります。

また、未払い残業代を巡るトラブルが裁判になり、未払い残業代や違法残業の状態が悪質と判断された場合には、「付加金」の支払いがペナルティとして課せられる場合があります。

付加金は、未払い残業代の金額と同額を請求できるもので、もし裁判で認められると、会社としては未払い残業代の2倍にあたる金額の支払いが命じられる可能性があるので注意しましょう。

(3)風評被害が発生する恐れがある

昨今、従業員が会社の労働環境をSNSにアップするケースは少なくありません。

電通の過労死事件でも、亡くなった女性社員がSNSに上げていた投稿が何度もニュースで取り上げられていたので、記憶にある方も多いのではないでしょうか。

SNS上では企業名が書かれていなくても、他の投稿や別のSNSから、勤務先が知られるのは簡単です。

仕事上の愚痴にとどまらず、労基署の検査が入ったり、勧告を受けたと言った情報が流れたら、ブラック企業として風評被害を受ける可能性は高まります。

また、SNSだけではなく、昨今は退職者を含めた従業員が、勤務先の情報を書きこめる転職者向けのサイトもあるので、転職希望者にも大きな影響を与えます。

こうした情報が広まると、採用活動のみならず、従業員の意欲の低下や、会社のイメージ低下にもつながる恐れがあるのです。

3.未払い残業代の請求が不当な場合の対処法とは?


会社にとって大きなリスクとなる未払い残業代や違法残業代の請求ですが、従業員からの残業代請求が、必ずしも正当なものであるとは限りません。

過去の裁判例でも、従業員からの未払い残業代請求などが理由がないとして認められなかったケースもあるのです。
具体的には、会社側からの以下のような主張が認められた裁判例があります。

1)裁判例1

みなし残業代の規定が無効であるとして残業代の請求をした従業員の主張に対し、みなし残業制度の有効性とみなし残業代の支払いが認められ、残業代の請求が一部認められなかったケース。

2)裁判例2

会社の支店を統括する立場にある支店長が、未払い残業代の請求をしたが、管理監督者にあたるとして残業代の発生が認められなかったケース。

3)裁判例3

会社が残業禁止を命令していたにもかかわらず、定時に退社できる業務量ではなかったとして残業代を請求した従業員に対して、会社が業務の引継ぎまで指示していた等の事情から、残業は労働時間にあたらないとして残業代は請求できないとされたケース。

4)裁判例4

従業員が、かつての未払い残業代が残っていたとして請求をしてきたが、消滅時効の成立が認められたケース。

5)裁判例5

従業員が、タイムカード等の出退勤記録に基づいて未払い残業代の主張をしてきたが、勤務時間の大半を業務外のことに費やしていたとする会社の反論が認定され、残業代の請求が認められなかったケース。

このように、従業員の主張に対して、どのような反論をしていくかがとても重要になります。
過去の裁判例などをもとに適切な主張をしていくことが求められますが、会社の内部だけで対応するのは難しい場合もあります。

従業員から不当な未払い残業の請求があったような場合には、労働問題に強い弁護士に相談するなどして、対策を検討しましょう。

まとめ

今回は、従業員からの未払い残業代や違法残業代の請求について、どのようなケースに注意すればいいのか、また実際に請求された場合にどのように対処すればよいのかについて、実際にあった裁判例などをもとに解説しました。

残業代の請求は、昨今の労働トラブルのなかでも非常に増えている分野のひとつです。

未払い残業代を巡って裁判になると、時間的にも業務的にも会社に大きな負担になりますし、もし認められればブラック企業の風評被害も生じかねません。

このような事態を避けるためには、日ごろから労働問題や労働管理に強い弁護士に相談して、トラブルを未然に防ぐ対策をとっておくこと、そして万が一紛争になった場合には、会社側の主張を法的にきちんと主張できるように備えておくことが有効です。

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