遺産分割協議書における預金債権の書き方について

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

誰もが直面しうる「相続」

相続が発生した際、葬儀費用や相続税の支払いなど、まとまった現金が必要となる場面は多いです。

こうした場合、被相続人(亡くなった方、相続される側)の預貯金を用いることは出来ないのでしょうか。

そこで今回は、遺産分割協議と預貯金について解説します。

※この記事は2017年4月18日に加筆・修正しました。

1.相続開始後、被相続人の預貯金を相続人は金融機関から自由に払い戻せる?

(1)理屈では払い戻せる

被相続人が遺言を遺さずに死亡した場合、判例を見てみるとお金や預貯金などの可分債権(性質上分けることができる債権)は各相続人に対して法定相続分に応じた帰属をします。

つまり、理屈の上では、相続人は自ら法定相続分に応じた額の払戻請求をすることが可能です。

※なお、平成19年10月1日の民営化以前に口座開設した郵便貯金は、貯金の種類によっては法定相続分に応じた払戻請求が出来ないものがあるので、注意が必要です。

(2)判例と異なる金融実務の取り扱い

相続開始後には金融機関側は口座を凍結し、相続人全員の合意書や遺産分割協議書が提出されない限り、払戻しに応じないとしています。

つまり、金融実務の取扱いは判例の理屈とは異なっているのです(弁護士からの請求であった場合等には、法定相続分に応じた払戻請求に応じることもある)。

こうした取扱いをする最大の理由は、金融機関が相続トラブルに巻き込まれることを避けることにあります。

例えば、本当は遺言が存在しており、法定相続分に応じた払戻請求権がない者に対して払戻しをしてしまった際、金融機関は二重払いを強いられる危険性があります。

金融機関としては、こうしたトラブルを回避するため判例の理屈とは異なる取扱いをしているのです。

(3)遺産分割協議が必要

そのため、預貯金の払戻しをするためには、遺産分割協議を行い、預貯金の帰属について相続人間で合意する必要があるのです(なお、上述したように、本来、預貯金は当然に分割されるので、遺産分割協議の対象ではありません。とはいえ、相続人間で協議対象とすることが合意出来れば協議対象とすることが出来るし、実際、そうすることの方が多い)。

※なお、遺産全体についての分割協議が終わる前でも、預貯金についてのみ相続人間で合意が調えば、金融機関は払戻しに応じてくれる。
葬儀に必要になる金銭や相続税の支払いなど、急ぎ現金が必要になった際などに利用するのも手です。

2.遺産分割協議の流れ

(1)遺産分割協議とは?

被相続人が死亡した時に持っていた財産に関して、それぞれの相続財産の権利者を決定する手続です。
要するに、遺産をどのように相続人個々人に分配するかについて決めるということです。

(2)遺産分割協議の流れ

①相続人の確定

遺産分割協議は、全ての相続人で行うのが必須ですので、まずは相続人を確定させる必要があります。

子だくさんだったり、兄弟が多かったり、養子縁組をしていたり、離婚歴があったりすると思わぬところに相続人がいたりします。

市区町村の役場で、被相続人の出生から死没までの戸籍を取り寄せて、相続人は誰なのかを決定させましょう。

②遺産の確定

次に、遺産を確定させる。
協議後に遺産が発見された場合、二度手間になる可能性があります。

詳細については、実際に関係各所へ連絡をして取得した資料を基に遺産を決定することになります。
不動産に関しては登記を取得します。

実際に不動産の数が分からない場合は、役所で実際に税金が支払われている不動産の一覧表を貰えます。
預貯金は、通帳を調べたり、残高証明書を金融機関から貰うとよいです。

③協議の開始

話し合いを行い、分割方法を定めましょう。
話し合い自体は相続人のみで行えます。

ただし、全然話し合いにならない場合は調停になる場合があります。
相続人同士で合意ができるなら法定相続分に沿う必要はありません。

④遺産分割協議書の作成

協議の結果を書面にしましょう。

3.預貯金についての遺産分割協議書上の書き方は?


遺産分割協議書作成に際しては、分割対象や分割方法についてきちんと特定することが重要です。
預貯金については「金融機関名や支店名、種類、口座番号、相続開始時の残高」をしっかりと記入します。

(例)

A(人名)は、以下の預金を取得します。

●銀行▲支店

(普通) 口座番号 ●●

◯◯円

なお、遺産分割協議書の書き方についてについては、「【無料ダウンロードOK】遺産分割協議書の雛型と書き方」に詳しく記載したのでご参考にしていただきたいです。

こちらから、遺産分割協議書の雛形もダウンロードして頂くことができます。

4.預金の払い戻しの方法は?

(1)遺産分割協議書による払戻し方法

協議書作成後は、金融機関に対し、払戻しを請求しましょう。

その際は、遺産分割協議書原本(なお、コピーを取った後、還付される)のほか、一般に以下の書類が必要になります(ただし、金融機関により必要書類が異なることもあるので、預貯金口座のある金融機関にまずは確認してほしい)。

  1. 金融機関所定の払戻依頼書(相続人全員が署名・実印捺印したもの)
  2. 被相続人の戸籍(生まれてから亡くなるまで)
  3. 相続人全員の現在戸籍(3ヶ月以内)
  4. 相続人全員の印鑑証明書(3ヶ月以内)
  5. 預金通帳

※なお、上述したように、遺産分割協議終了前でも預貯金のみについて相続人間で合意し、払戻し請求することも可能です。
その際も、一般に、上記1.~5.の書類が必要になります。

(2)遺言書による払戻し方法

ここまでは、遺言書が存在しないケースを想定してご説明いたしました。

遺言書によって預貯金の分け方が決定している際は、受贈者(遺言によって決められた相続人)が話し合いをせず預貯金の払戻請求が出来ます(ただし、遺言の信用性が疑わしい場合等には、金融機関から、相続人全員の合意を求められることもある)。

その際は、以下の書類が一般に必要とされます(こちらについても、具体的には金融機関に問い合わせてほしい)。

  1. 遺言書原本(コピーを取った後、還付される)
    遺言は家庭裁判所の検認を経ている必要があります。
    ただし、公正証書遺言であれば、検認は不要です。
  2. 遺言者の除籍謄本
  3. 受遺者の印鑑証明書

※なお、遺言執行者が存在しており、その遺言執行者が払戻請求を行う場合には、一般に③受遺者の印鑑証明書に代わり、遺言執行者の印鑑証明書が必要とされる。

また、遺言執行者が遺言で指定されたのではなく、家庭裁判所に選任された場合は、その審判書謄本が必要になります。

まとめ

以上、相続における預貯金の払戻しについてご理解していただけたでしょうか。
相続におけるお悩みが一つでも減って頂ければ幸いです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

Twitter・RSSでもご購読できます。